表題番号:2023E-015 日付:2024/02/20
研究課題デューイの「探究」に対する「情動」の影響に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 助手 定方 太希
研究成果概要

 本研究では、デューイのいう「探究inquiry」における情動的な側面を明らかにすることを目的として文献調査を行った。具体的には、「探究」の「示唆suggestion」の局面に着目し、「情動emotion」が「示唆」の湧出に対してどのような影響を及ぼすのか、また、湧出した「示唆」と探究者とが相互作用する中で、どのようにして「情動」が明確化され、その意味が知られるに至るのか、その委細を解明することを試みた。  
 本研究において見込まれる研究成果の概要を以下に記す。デューイの「探究」とは、不確定な状況を確定的に統一された状況へと変容することである。状況にはその全体の雰囲気のような「情動的な質」が浸透している。「情動」はまずもってこうした非認知的な感じとして生じ、それは一定の身体的な反応傾向として現れる。こうした質は、「示唆」の連鎖たる「観念連想」を呼び起こし、観察された事実と想像された「示唆」が無関係なものではなく、一貫性のあることのように感じることを可能にする。また、「情動的な質」は、その介在によって生起する「示唆」の内容をも規定する。「示唆」は「探究」の不可欠な道具である以上、このことは「探究」の内容を規制することを意味する。

次に、こうして生起した「観念連想association of ideas」は、更に「情動」を呼び起こし、探究者はそれに対して身体的な反応傾向を示す。このような中で、「情動」は、「示唆」に対してどのような反応傾向を示すかという観点から明確化され、その意味は知られるようになる。そして、「情動」の意味の認知は、探究者自らがその状況下において、こうした「情動」を抱く性格であることを開示し、自己了解を促す。それによって、現状でそのように感じさせる条件は何かを意識的に知ることを可能にする。今後の課題としては、デューイの「身体-精神body-mind」論の観点から、本研究の内容を更に発展させることを挙げたい。