表題番号:2023E-004 日付:2024/04/03
研究課題産業用ロボットの導入が、労災リスクおよび寿命に与える影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 政治経済学部 准教授 吉田 雅裕
研究成果概要
 米国では金融不況以後、労災率が下げ止まっている。産業用ロボット導入が加速的に進む中、なぜ労災率が下がらないのだろうか。一方で労災率が高い農業や建設では、南米からの移民が半数近くを占めている。この研究は移民流入とロボット化が労災率に与える影響を、操作変数法を用いて、実証的に分析した。
  国勢調査の雇用データと、労働統計局(Bureau of Labor Statistics)の労災記録を産業別に組み合わせ、1992-2019年のパネルデータを構築したところ、移民の依存率が高まると、ネイティブ労働者の労災数(死亡・傷害を含む)を減らすことを発見した。
 さらに国際ロボット連盟(International Federation of Robotics)の産業別のロボットの投資データを組み合わせ、特に製造業におけるロボット導入が著しく労災率を下げたことがわかった。すなわち、国レベルでの労災率が下がらないのは、農業や建設業など自動化が進まない、労働集約的で危険な産業の雇用ウェイトの寄与度が大きい。
 これらの結果を踏まえ、低技能移民の流入で労働供給が増えると、労働代替的なロボット技術への投資が鈍るという技術変化の仮説を立て、実証的に有意な結果を得た。すなわち、移民の流入はネイティブの労災自体を減らすが、危険な労働環境を温存させ、同環境で働き続けるネイティブの労災率を底上げするようである。
 背景として、少子化で労働力不足が進む中、雇用者の移民労働力への依存が起きやすい構造にある。移民には不法入国者が多数おり、最低賃金の遵守や、無保険で労災の保険負担が発生しにくい。統計である労災の背後には、労災認定されない慢性的な肉体負担(関節や筋肉への痛み)があると考えられる。米国の州のパネルデータで傷害率と、鎮痛剤のオピオイド死亡率の強い正の相関を発見した。進行する移民依存が労災の下げ止まりを通じて、全米最悪と言われるオピオイド薬禍の温床となった可能性が示唆される。
 これらの研究結果を論文にまとめ、春季日経学会(2024年5月開催)で採択され、発表予定である。