表題番号:2023C-706 日付:2024/03/29
研究課題カルロ・スカルパの建築における「額装された全体性」に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 芸術学校 教授 平瀬 有人
研究成果概要

 本研究は、建築家カルロ・スカルパの美術館建築《カステルヴェッキオ美術館》・《カノーヴァ石膏彫刻陳列館》の空間構成及び展示物に着目することで、スカルパのデザインの根幹的手法である、フレーミングによって鑑賞者に視点を与える「絵画的手法」による「額装された全体性」への基礎的知見を得るものである。従来職人的建築家と見られがちであったスカルパの建築作品は、鑑賞者自身が多くのシーンを結びつけながら体感する空間、シークエンシャルな多視点が連続していく空間が特徴であり、それを筆者は過去の研究において、スカルパの開口部(窓)のデザインの分析を通じて、フレーミングによって鑑賞者に視点を与える「絵画的手法」として定義している。具体的には、窓の〈枠〉・絵画の〈額縁〉・彫塑の〈台座〉という「フレーム」と鑑賞者の視点(立ち位置)の位置関係によって、絵画的なシーンを構築するようなデザインのことを言う。

 美術の世界では、額縁は絵画そのものを装飾すると同時に、それが飾られる壁や空間全体の演出をも含めた全ての環境が一体となって「額装」という役割を果たしている。スカルパの美術館建築においても同様で、「絵画的手法」の複合によって、展示物と建築空間全てを含めた「額装された全体性」(「フレーム」の重層によって生まれる、背景や周辺環境をも含めたトータルな空間演出)が創出されている、と言える。

 スカルパの美術館建築の特徴を明らかにするためには、展示物とその周囲の建築空間の関係性を含めた考察が必要で、今後そのような「絵画的手法」による「額装された全体性」を定量的に把握する必要があると考えている。そのためには単なる平面図・断面図への構成要素のプロットのみならず、3次元的に空間を見ていく必要があるが、本研究では関連する書籍などからその基礎的な知見を得ることができた。