表題番号:2023C-698 日付:2024/04/05
研究課題中世日本即位灌頂儀礼の再検討―『瑜祇経』の視点から―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 国際教養学部 准教授 トレンソン スティーブン
研究成果概要
本研究では、中世日本の密教儀礼の一形態である即位法(即位灌頂を中心とする密教修法)に注目し、その儀礼を裏付けていた密教思想を論考した。即位灌頂とは、新天皇が高御座を登る時に行う密教的作法(印を結び、真言を唱えるという作法)のことである。初見は1068年の後三条天皇の即位礼であるが、本格的に即位灌頂が確立したのは十三世紀末、伏見天皇の即位の際である。しかし、すでに十三世紀以前に密教の諸寺院内において天皇が即位の際に行うとされる印や真言について様々な秘説や即位法が作られ、伝授されていた。その秘説や即位法の言説において、日本密教の最も重要な経典の一つである『瑜祇経』からの影響が見られる。そのことはすでに多くの先行研究において指摘された通りであるが、本研究では、改めて即位灌頂の秘説及び即位法と『瑜祇経』との思想的関係を考察し、即位法の宗教的意義に新たな光を投じた。具体的に言えば、天台宗の僧・慈円筆『夢想記』の王権観や醍醐寺地蔵院流の即位法(四海領掌法)の言説の分析により、それらの言説が『瑜祇経』に記される仏眼信仰や愛染王信仰に基づいた様々な解釈によって裏打ちされていたことを判明し、特に本経の「仏母」信仰の多様性と意義を明らかにした。この研究成果は今年中に英文の国際学術雑誌に発表される予定である。