表題番号:2023C-668 日付:2024/04/08
研究課題Pbをドープした銅酸化物高温超伝導体Bi2212の単結晶育成と光学的性質測定
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 朝日 透
(連携研究者) 早稲田大学 総合研究機構 主任研究員 中川鉄馬
研究成果概要

 本研究では、我々が独自に開発してきた一般型高精度万能旋光計 (略称、G-HAUP) を用いて、超伝導転移温度Tcより遥かに高温から観測される「擬ギャップ相」における旋光性・円二色性 (左右円偏光に対する屈折率・吸収率の差) と、光学的異方性を測定することにより、銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ相における秩序形成が何かを見出す。とくに、銅酸化物高温超伝導体のBi2Sr2CaCu2O8+d (Bi2212) 結晶のa軸、b軸方向の格子定数からは、異方性は非常に小さいことが予想されるが、驚くべきことに非常に大きな光学的異方性が観測された (K. Zhang et al., J. Phys. Soc. Jpn., 90, 113702, 2021)。これには、b軸方向の「不整合」が寄与している可能性がある。

 そこで本研究では、不整合が消失すると知られているPbをドープしたBi2.2-xPbxSr2CaCu2O8+d (Pb doped Bi2212) の単結晶をフローティングゾーン法により育成した。育成した単結晶のXRD、XPSを測定することにより、Bi2212にPbがドープされたことを確認した。また、FIBによる加工により薄片化した単結晶試料に対し、STEM像ならびに電子回折を観察した。その結果、Pbをドープしていないときには明確に観察されていた不整合が、Pbをドープするにつれて消失することが明らかとなった。このような試料に対し、G-HAUPにより、c軸方向の光学的異方性の波長依存性を測定した。その結果、PbをドープしていないBi2212結晶と同様、Pb doped Bi2212においても350 nm以下の短波長において直線複屈折及び直線二色性の異常が観測された。注意深く解析した所、その異常の大きさは、Pbをドープしていないときとドープしたときで異なることが明らかとなった。

 現在、測定試料を低温まで冷却可能なG-HAUPを新たに構築している。今後、低温冷却G-HAUPを用いて擬ギャップ相における旋光性・円二色性と、光学的異方性を測定することにより、擬ギャップ相における対称性の破れの存否を明らかにするとともに、高温超伝導体が持つ特別な秩序を明らかにする。