表題番号:2023C-664 日付:2024/03/30
研究課題ナノファセット基板/ファセット選択各成長技術によるトポロジカル絶縁体薄膜の作 製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 小林 正和
研究成果概要
トポロジカル絶縁体は表面にはスピン偏極した電子が流れているため金属的な高い導電性を示すが、バルクは高い抵抗率を持つ絶縁体である。この性質により低損失で高速なデバイスへの応用が期待されている。これまでMBE法を用いてGaAs基板/ZnTeバッファ層上にSnTe薄膜作製と品質改善に関する研究を行ってきた。先行研究ではXRDロッキングカーブ測定の半値幅が0.6°程度と小さな結晶の作製に成功してきた。しかし、表面には深い溝が残っており、その原因はSnTe成長初期段階で2次元的な成長が起こりにくくなったためだと考えた。
そこで本年は表面の溝をなくすため成長初期段階である核形成プロセスの改善などに注目した。GaAs/ZnTe下地のうえにSnTeのアモルファス層を全面がおおわれる程度に形成し(バッファ層)、そのうえに薄膜成長をおこなうことを検討した。アモルファス層堆積時の基板温度が160℃であったときは、RHEEDで確認している成長表面の様子は多結晶化したものの堆積であり、アモルファス層由来の信号は明瞭には確認されなかった。アモルファス層堆積中にSnTeが結晶化してしまった原因は、Sn供給中の高温(990℃)なSnセルからの輻射熱とSn原子からの熱が基板に伝わり、原子が配列して結晶化するような状況を作ってしまったためであると考えられる。そこで一般的には考えにくいほどの低温でアモルファス層を作成することに注目し、アモルファス層作製時の基板温度を20℃に下げ、Snセルからの輻射熱の影響等を低減させた。そのことが大きなブレークスルーとなりアモルファス層の均質な形成に成功した。さらに成長条件の最適化を進め、(100)配向したGaAs基板上に(100)のみに配向したSnTe薄膜の作製に成功した。表面段差のある構造についてはじゅうぶんに 改善されたとは言えないが、溝の深さも相当改善されて10nm程度までに抑制することが可能になった。