表題番号:2023C-649 日付:2024/04/06
研究課題持続可能な看護支援のための重度障がい児感情推定システムの構築に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 基幹理工学部 教授 小川 哲司
研究成果概要
医療が必要な重症心身障がい児(以下,重症児)とのコミュニケーションを支援する人工知能(AI)技術として,映像から重症児の感情状態や意図を推定する方式について検討を行った.重症児は感情の表出方法に強い個人性があること,および感情状態・意図推定の目的が医療・看護に関する意思決定支援であることから,持続可能な重症児看護のための感情状態推定を,少量の学習データでも頑健に感情状態推定モデルを構築可能(要件Ⅰ),感情状態が検知された際の根拠を説明可能(要件Ⅱ)な形で実現することを試みた.具体的には,感情状態の拠り所(サイン)もしくはその構成要素を識別するような大規模事前学習モデルの利用によって,上述の二つの要件を満たすような感情状態推定の枠組みを提案した.提案方式では,顔表情から感情状態が読み取れる児を想定し,顔面筋の動作単位であるアクションユニット(AU)をサインの構成要素として検出するとともに,検出における中間情報を感情状態推定の特徴量として利用した.顔面筋の動きは実際に養育者が意思決定過程で拠り所とする情報であり,感情状態の特徴表現及び予測根拠の直感的な説明材料として利用可能である.また,顔面筋の動きは人に依らない情報であるため,健常者の大規模データを事前学習モデルの構築に利用出来る.これにより高精度な特徴が抽出され,感情状態推定器の学習が重症児の少量データで可能になると期待される.重症児 1 名の映像データを題材とした快・不快状態の推定実験を通して,提案手法と汎用的な事前学習モデルを用いる手法を比較し,推定性能と予測根拠の説明性の観点から,提案手法が有効であるという結論を得た.本研究で得られた知見は,重症児のコミュニケーション支援AIの開発のみならず,個人依存性が高い属性の予測およびそのためのモデリング一般に貢献することが期待される.