表題番号:2023C-634 日付:2024/03/22
研究課題クロスボーダーM&AとR&D投資:気候変動リスクに注目した実証分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 助手 飯野 佳亮
研究成果概要
近年、気候変動リスクへの対処が重要な経営課題の1つとなっている。企業はCO2排出量の削減に有効な技術を獲得する必要に迫られており、一般的に2つの手段が有用である。1つは、R&D投資による自社内での環境技術開発で、もう1つは、こうした環境技術を持つ企業を買収する技術獲得型M&Aである。M&Aの中でも、研究開発技術の獲得はクロスボーダーM&Aの主要な目的の1つとされており、本研究ではクロスボーダーM&Aに注目する。ただし、2つの投資には特徴があり、クロスボーダーM&AとR&D投資を組み合わせるか、どちらか一方に特化するかという戦略の選択が重要になる。本研究の目的は、日本企業におけるクロスボーダーM&AとR&D投資の関係を分析した上で、気候変動リスクがこれら2つの投資の戦略決定に影響を及ぼしたのかを実証的に解明することである。具体的には、R&D投資集約度が高い企業ほどクロスボーダーM&Aを実施する可能性が高いかどうかを分析し、その上で、2015年のパリ協定を外生的ショックと見なしたDID分析や、企業個別のCO2排出量に注目した分析を行う。分析の結果、R&D投資集約度が高い企業ほどクロスボーダーM&Aを実施する可能性が低いことが明らかにされた。この結果は、クロスボーダーM&AとR&D投資が代替的であることを示す。他方で、気候変動リスクに注目すると、R&D投資集約度が高く、CO2排出量が多い企業では、クロスボーダーM&Aを実施する可能性が高まることが確認された。特にこうした傾向はCO2排出量が多い産業で顕著であった。気候変動リスクが高い企業では、自社が保有する既存技術とクロスボーダーM&Aによって獲得した技術を組み合わせることで、迅速にイノベーション効率を高めようとしていることが示唆される。