表題番号:2023C-619 日付:2024/05/01
研究課題日本社会学史における群集行動とポピュリズムに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 土屋 淳二
研究成果概要
本研究では,明治・大正時代の黎明期日本社会学における群集論の学説史上の系譜を再整理し,そこでの視座の特質が爾後の日本社会学にみる社会運動(変動)論に与えた理論的影響を明らかにし,今日のポピュリズム研究の学説史的資料としての意義を問うことを目的にしている.近代国家の形成過程における危機と秩序再編にみる歴史的特殊性に思想的背景を背負いながら,一個の個別経験科学として自己意識化されていった明治・大正期にまたがる草創期日本社会学の系譜を辿り,爾後の激動期での社会騒擾や民衆暴動に対する危機意識から大正民本主義運動や知識人運動等へと導かれた社会変革論と,社会統制や秩序維持の保守体制論との力動的な対立構造の枠組みおいて内発する視座の特質を精査し,現代のポピュリズム研究における社会学理論の思想的源流と知識社会学上の問題位相を討究することが第一の課題であった.現代のポピュリズム論の構成要件としての反エリート主義や反知性主義に関する社会学理論自体に内在するイデオロギー批判のあり方について知識社会学の観点から試論した.近代初期の群集論が,同時代の政治コンテクストの歴史的特異性が要請する社会統制論的実学として犯罪心理・民族学,群集心理・社会論,民族心理学を下地にして,骨相学や優生学的諸研究をも理論内部に取り込みながら保守主義思想の母胎のなかで独自の発展をみていたことは知られているが,その系譜展開においてとくに留意すべき点は,それら明治期の初期社会科学思想にみられる群集行動や大衆運動に対するアカデミズム内に基底する統制意識であり,学問的エリート主義の価値観の理論的視座への内在である.この思想的背景は,今日の先端技術を援用した「人間科学」「医療工学」「神経科学」等にみられる人間行動の理解の方法,つまり近代の人間行動の「科学的管理」化を起点とする人間行動の合理化と制御可能性をその管理・統制に応用する理論的視座においても踏襲されている.当該の特定課題研究では,この現代における人間行動の管理と社会統制の問題について知識社会学的観点から問題性を明らかにした.