表題番号:2023C-609 日付:2024/02/08
研究課題CBDCの国際化と「中央銀行の独立性」および通貨・通貨主権概念の再検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 大学院法務研究科 教授 久保田 隆
研究成果概要
 日本を含む世界各国では、現在、法定通貨のデジタル化である中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入に向けて、検討の最終局面にある。CBDCは国内だけでなく国際取引の対象としても考えられており、IMFはCBDCのクロスボーダー取引基盤の形成に2023年夏に名乗りをあげた。
 さて、CBDCが国際化すると、これまで紙幣を念頭に外国通貨が国内通貨に取って代わる「ドル化」が通貨主権に与える影響が議論されたことはあったが、デジタル化すれば、これが顕著になり得る。一方、通貨主権を巡る国際法は未発達で、いざ問題が起きた場合に素早く対応することが難しい。そこで、本研究では第一に、上記IMF取引基盤への参加ルールとして、他国の通貨主権の尊重や、それが破られた場合の参加者全部の義務をソフトロー合意することを提案した。
 一方、CBDCは各国の中央銀行が開発に取り組んできたが、政府(行政権・立法権)との関係や主権者=国民への説明も重要である。このため、英米NZでは市中コンサルテーションを盛んに実施してきたが、日本では未実施のままである。政府や国民はCBDCにどの程度関与すべきだろうか?そこで本研究では第二に、日本銀行法3条に定める「中央銀行の独立性」がある一方で日本銀行は依然として行政権・立法権に服し、国民への説明義務を負うことを1997年の日銀法改正時の議論に立ち返って確認した後、現在進行中の英国等における「中央銀行の独立性」再検討の法改正の動きを参照しつつ、日本銀行法3条の努力義務に説明義務違反に伴う罰則を付与すべきことを提案した。
 さらに、上記の通貨主権及び憲法上の問題は、通貨・金融の側面から、いずれも最近注目を浴びつつある「経済安全保障」の中で浮上した重要論点であることを示した。
 以上について、2023年11月18日の日本国際経済法学会日韓シンポジウム(於;同志社大学)で英語報告し、各国専門家10余名を集めて12月2日に「デジタル化と金融法の未来」と題する国際シンポジウムを主宰・報告し(主催:国際商事研究学会、国際取引法学会、於:早稲田大学)、2024年1月の法律時報の特集「経済安全保障の法的制御」に「金融システムと経済安全保障」を寄稿し、2月に国際経済法雑誌に英語論文を寄稿し、3月6日にオークランド大学ビジネススクール、8日に豪州国立大学法学部で各々本テーマで英語講演した。