表題番号:2023C-608 日付:2024/03/27
研究課題フランスにおける重大他害リスクのある社会的孤立者に対する対応策の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 大学院法務研究科 教授 小西 暁和
研究成果概要
 フランスにおいて特に問題となっているのが「暴力的過激主義」(extrémisme violent)の者・「急進化」(radicalisation)した者への対応である。こうした者達は、テロを始めとした暴力的犯罪への関与が問題とされるが、とりわけ宗教的背景を持つことが多い。本調査研究の一環としてIERDJ(法と正義研究・調査機構)で開催されたセミナーにおいて、ストラスブール大学のNicolas Amadio准教授は、暴力的過激主義者の特徴・傾向として、(1)グループへの帰属、(2)暴力の肯定、(3)イデオロギー的動機、また(4)社会・法的な対応の問題があることを指摘していた。特に(4)については、警察、刑罰適用判事、保護観察官の対応の影響が大きく、対応の仕方によって対象者に当局への対抗心が生み出されることになるとされる。
 そして、刑務所では、暴力的過激主義者向けの特別な区画が設けられてもいる(本調査研究では、リール-アヌラン行刑センター(Centre pénitentiaire de Lille-Annœullin)において、暴力的過激主義者の処遇に関する実態調査(所長・刑務官等からのヒアリング及び収容棟内の視察)・意見交換も実施した)。ただ、処遇の場面においては、対象者に対して、「脱急進化」ではなく、「暴力からの離脱」が目指されている。過激主義などの思想を持つことは個人の自由に任され、暴力性の除去だけが図られることになる。 
 また、フランスにおいて、他に、精神的な課題などを抱えた者に対しては、「保安監置」(rétention de sûreté)等が取られる。「保安監置」は、フランス国内で重大事件が起こったことを切っ掛けに2008年に導入された。本制度では、「特異な危険性」(particulière dangerosité)を有する者が対象とされ、保安に関する社会医療司法センター(Centre socio-médico-judiciaire de sûreté)へ刑期終了後に収容される。とりわけ性犯罪者が対象とされるという。過激主義のテロリストにもこうした措置を導入すべきという意見も見られるが、反対も根強いとされる。