表題番号:2023C-607 日付:2024/02/09
研究課題民意を反映する代表民主制を構築する
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 大学院法務研究科 教授 中島 徹
研究成果概要

 「営業の自由は『ヒューマン・ライツ』か」という本研究成果の論文タイトルには、二重の意味がある。今日では解決ずみとされる1970年代の営業の自由論争における、営業の自由は憲法22条が保障する職業選択の自由に含まれる人権か、それとも公序か、という周知の問いと、そこでいう「人権」は「ヒューマン・ライツ」と同義か、という問いである。

職業選択と営業は保障される局面を異にする。職業選択の自由は、居住移転の自由とともに、中世身分制社会を解体する基軸となる権利であったが、営業自体は中世でもギルド等の特権として認められていたが、同時に個人に職業選択の自由を否定する役割も果たした。営業することが職業選択の自由に内包される「人権」であることは、論理的にだけでなく解釈論としても自明ではないのである。

コロナ禍の社会状況が法律学に投げかけた問題のひとつに、飲食店の営業規制問題があった。新型インフルエンザ特措法に基づく営業時間等の規制が営業の自由の侵害で違憲だと訴えた原告は、「憲法221項は、選択した職業を遂行する自由として、営業の自由を保障する。職業は、……社会の存続と発展に寄与する社会的活動の性質を有し、各人が自己の個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分に関連する」(圏点、引用者)と主張した。

バブル経済崩壊により不況となった日本は、現在に至る「失われた30年」に陥る。しかし、法人企業のみならず一般市民までがかつての経済成長の夢を捨てきれずに拝金主義が横行し、市場の自由=独占化が自明視されて、いまや営業の自由が「人権」であることに疑いはないといわんばかりの状況になっている。これに対し本論文では、「選んだ職業を継続できなければ選択は無意味」などという願望を込めた機能主義的説明ではなく、営業の自由を人権=ヒューマン・ライツと位置づけることができるかどうかを道徳哲学的観点から序論的な考察を行った。