表題番号:2023C-594 日付:2024/03/29
研究課題世界のなかの近現代日本の国家褒賞
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 歴史館 講師 袁 甲幸
研究成果概要

本研究は、前年度の科研費プロジェクト「「公益」貢献者に対する褒賞と日本近代地域秩序の形成」(21K20051)に続くものとして、東アジアや欧米の国家褒賞に関する近年の研究成果を踏まえて、近代日本の民間人に対する国家褒賞の制度および運用の実態をグローバル的に位置づけてみた。

近代日本の民間人に対する国家褒賞の中核となす褒章は、当初、制度的な枠組みも授与の実態も江戸時代の褒賞制度から継承しており、古代中国の「旌表」制度の運用と類似していた側面が見られた。そのため、軍事および植民地経営を背景に形成されてきた近代ヨーロッパ国家の民間人褒賞と異なる様相を呈していた。しかし、1890年代の授章枠の拡張を経て、地方自治と産業振興への貢献がより評価されるようになってからは、地方行政を経由した褒章の推薦・審査過程も含め、フランスのレジオン・ドヌール勲章と類似する側面を見出すことができた。また、第一次世界大戦後の紺綬褒章の導入に伴う受章者の爆発的な増加や、社会事業への貢献が重要な評価基準となったことなどは、同時代の大英帝国勲章の階層・数の両方の拡張と軌を一にしている。しかし、二度の制度および運用実態変化は、ヨーロッパ制度の受容を明確に観察することができず、あくまで近代国家の形成、そして大衆社会への対応という共通の背景での出来事と理解できる。ただし、日本の場合、制度における君主制の意義などについてはさらなる検証が必要である。

その成果の大部分は、EAJS(ヨーロッパ日本研究協会)2023年大会で発表した。その際にいただいたヨーロッパの研究者からの意見をも取り入れて、現在は英語学術誌への投稿に向けて準備を進めている。