表題番号:2023C-573 日付:2024/04/05
研究課題柔道のグローバル化と「再日本化」をめぐる日仏関係史研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) グローバルエデュケーションセンター 講師 星野 映
研究成果概要
柔道は、その日本固有性を切り離しつつスポーツとしてグローバルに拡大してきた。他方で、近年フランスを中心として国際柔道連盟などでは、他のオリンピックスポーツとの差異化もあって柔道が持つ日本発祥の文化としての側面も強調するようになっている。こうした柔道のグローバルな拡がりに伴う「脱日本化」と「再日本化」の過程を、国際柔道界の「2つの中心」たる日本とフランスの関係史から明らかにしようと試みた。
 フランスは、日本に先んじて柔道の国際的な組織化の中心にあり続けてきたが、そこでは国際的な議論とフランス国内の柔道をめぐる方針が相互に連関してきた。近年の柔道の「再日本化」も同様であり、柔道の教育的価値の強調や、漢字を使った道徳規範の提示などは、いずれもフランス国内で普及したものを国際柔道連盟に採用したのである。こうした国際的な議論の場におけるフランスの姿勢は、柔道に限られたものではない。フランスは国際的なスポーツの歴史において、自らの普遍主義モデルを推進し続けてきたのであった。
日仏のスポーツをめぐる関係については、1928年に東京と満洲・大連で実施された日仏対抗陸上競技が、日本で行われた最初の日仏対抗スポーツ大会として注目される。同年にアムステルダムで開催されたオリンピック大会では陸上競技・三段跳びの織田幹雄が日本代表として初めて金メダルを獲得するなど、日本にとっては欧米中心に国際スポーツ界に進出しゆく時代だった。一方のフランスは、第一次世界大戦で失墜した国家の威信を取り戻す手段の1つとして、国際スポーツ界でのイニシアチブを握ろうと試みた。そこでフランスの普遍主義モデルの推進は加速していくことになる。その1つが国際的なスポーツの組織化であり、日仏対抗競技はその顕著な例であった。近年の国際柔道の「再日本化」にも、近代スポーツの歴史におけるフランスの姿勢を明確に見て取ることができるのである。