表題番号:2023C-569 日付:2024/03/18
研究課題測定機器作りを通した深い学びに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 井上 貞行
研究成果概要

2022年度の研究において外部世界の情報を「遠隔項」、「近接項」そして「主体の内部モデル」に取り込んでいく過程について、概念的な整理を行った。しかし、依然としてそれらをいかに教科教育に落とし込んでいくのかについては課題として残る。そこで、本研究ではD.Hawkinsによって提唱された「Messing about」の概念に注目して実際の教科教育での「Messing about」の適応、及びそれらの可能性の解釈について分析を行った。D.Hawkins は自身の教育において生徒たちが物理を理解するためには、教師が具体的に細かな指示を与えないが生徒たちが自由に材料や実験器具で「遊ぶ」時間や機会が十分に必要であるとし、それを「Messing about」と名付けた。本研究では、ポランニーのいう暗黙知とその概念を合わせて理解することを提唱した。暗黙知による理解では、遠隔項を道具を用いて感じるときにその感覚が近接項となり、近接項が暗黙化された後にさらにそれらが投射によって遠隔項と結びついたときに包括的理解が起こるとされている。そこでこれらの構造を教科教育において採用可能かをテストするために、地学基礎における地球の大きさの測定の単元において実践を行った。遠隔項として太陽の高度が、近接項として定規や分度器が、投射の働きが地球の大きさ及びエラトステネスの思考が想定された。また、遠隔項、近接項、投射の起こる場としてMessing about を採用した。生徒の自由試行の結果、生徒たちの感想を分析したところ生徒たちはエラトステネスの思考や、地球の大きさに至る投射を行い教科で要求される包括的理解に至ったことが示唆された。

 また、「適応的コンピテンス」の獲得につなげるため、物理探査学会と協力して応用地球科学の授業において昨年度に引き続き物理探査実験を実施した。今年度はより生徒の自由度を上げた結果、データを正確に得ることができないという問題がおこることが示された。しかし、同時にその失敗から生徒は多くを学ぶということも示された。