表題番号:2023C-566 日付:2024/04/02
研究課題母方言に着目した中国人日本語学習者における半母音と拗音の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 日本語教育研究センター 准教授 井下田 貴子
研究成果概要

 日本語の/o/や/u/に先行する半母音,拗音において,中国語を母語とする日本語学習者(以下,学習者)に生成・知覚の両面に誤りが見られるという報告がある。特に初級では/o/と/u/の混同が生じると言われ,その原因として日中両言語の母音の違いが影響していると考えられている。先行研究では異聴の方向性として,/o/→/u/ より/u/→/o/が多いと報告され,中上級レベルでは/o/-/u/の異聴はほぼ起こらないと報告されているが,上級レベルでの検証はなされていない。

本研究の最終目的は学習者の日本語母音/o/-/u/の知覚の傾向について体系的に明らかにすることである。本稿では先行研究で扱われなかった子音種を用いて/o/-/u/の知覚実験を行い,日本語習熟度と異聴の関係について実験を行った。

 実験に用いた刺激は,子音は直音が11種,拗音では口蓋化した子音11種,半母音である。聴取実験への参加者は合計4名で,日本語レベルは上級2名(CF1:女性,CM3:男性),初級2名(CM1,CM2:男性)である。なお,CF1が広東語,他3名は北京語を母方言としている。提示された1音節に含まれる母音が「あ」,「う」,「お」 のどれか強制選択をしてもらった。

 結果は,初級CM2の/o/正答率は他の参加者より有意に低いことから,学習歴や日本語のインプット量の少なさが影響していると考えられる。しかし,同じ初級のCM1は上級のCM3よりも正答率が高い。CF1においてはCM2と同程度異聴しているため,日本語レベルが異聴の原因であるとは言い難い。CF1の正答率から「(中上級)学習者の知覚において混同がほぼ発生しない」という報告と異なる結果となった。また、方言に関しても現時点で確認できている方言のバリエーションが少ないことと、標準語のベースとなる北京語話者が多いため、比較が十分ではなく、結果が個人差であるというにも量的に不足していると言える。これらに関しては今後の課題としたい。