表題番号:2023C-554 日付:2024/04/01
研究課題和平の促進と紛争当事者間の権力共有の関係:ミャンマー内戦終結に向けた事例研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 国際教養学部 教授 上杉 勇司
研究成果概要

本特定課題の最大の成果(集大成)は、2024226日〜28日に早稲田大学で開催した国際ワークショップ(Bridging the Gap: The nexus between indigenous and modern conflict resolution mechanisms in Southeast Asia)である。ミャンマーの事例以外にも、フィリピン(ミンダナオ)、東ティモールなど、他の東南アジア地域の紛争地の事例についても報告がなされた。

ミャンマーについては、内戦終結に向け、トップダウンのアプローチとボトムアップのアプローチが連動・連結できない点が課題として認識された。また、中国などの周辺国の支援や資源を検討する必要性、あるいは、ダイアスポラとなり、国外から国民民主連盟(国民統一政府)を支援する勢力の影響も視野に入れる必要性が議論された。

カチンなど少数民族武装組織との信頼関係の構築にも課題がある。多数派のビルマ人による中央政府、国軍との間の信頼情勢だけではく、少数民族間にも確執が残るため、内戦終結には、少数民族間の問題も包摂したアプローチが欠かせない。

Ethnicityのアイデンティティが強調されているなか、多様性を認めつつ、いかに国民としての一体感を形成するのか、というNation buildingの課題も多い。課題が山積するなか、女性の権利が軽視されやすい環境にも問題がある。つまり、社会の底辺にいる、少数派、女性、若者を含めた社会的な一体感をいかに生み出していくのか、が内戦終結に向けた課題であり、内戦が終結した後にも残る難題となる。

これまでの平和構築では、トップ(national)とローカル(community)の調整が重視されてきた。内戦を終わらせるためには、この基軸に加えて、社会的な紐帯、信頼関係、コミュニティの主体性、犠牲者意識ナショナリズムへの対処、公正さ(権力に対する説明責任)が求められる。国際的には地政学的な権力闘争のアプローチが主流化しつつある。そのような流れのなかで、伝統社会のレジリアンスを再考する動きに光を当てることは、意義深いことである。