表題番号:2023C-516 日付:2024/04/04
研究課題女性の視点から見た伝統文化のあり方:インクルーシブな社会的表象としての人間の塔
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 竹中 宏子
研究成果概要
  本研究期間では、2022年度から行われたフィールドワークで得られたデータの分析を行い、「男女混合」という通常の人間の塔のみからは捉えられないジェンダーの視点を考察した(学会発表)。その内容のポイントは以下の通りである。かつては男性のみで建てられていた人間の塔に女性が参画するようになったが、1990年代に「科学的に」人間の塔を建てる技術が取り入れられ、そこでは上の段には体重が軽い女性が乗ることが推奨された。すなわち、女性の自由意志というよりは、より高くより複雑な塔を建てる為に、女性が必要だったのである。こうした女性の参画は、通常、社会変化による女性のプレゼンスの向上や、女性の自由や権利の社会的承認など外的な要因とも関係づけられ、特に女性だけで建てられる人間の塔は、社会的マイノリティにおける女性の社会運動として捉えられることが多い。しかし本研究では人間の塔自体、高く建てられる「必要がない」ことに立ち返って考えた。つまり、女性のみでつくられる塔は、そこに存在する人々(女性)の能力を活かして「可能な」塔がつくられており、それは決して高くはないかもしれないが、社会のあるべき未来を指し示す可能性があることを強調した。こうした社会は、女性のみならず、あらゆるマイノリティが存在するインクルーシブな社会を示唆する。人間の塔という伝統文化においてこうした社会が表現されているのである。 
  また本年度は、国際女性デー(3月8日)にバルセロナの複数の人間の塔チームで建てられる女性の塔にも練習および実演で参与観察し、これまで対象としてきたチーム「サンツ(Sants)」のみならず、男女混合の塔とは異なる身体の所作を実体験した。この参与観察から、それまでの人間の塔の説明や定義が男性の視点から行われていた点を指摘でき、それについては論文としてまとめているところである。