表題番号:2023C-491 日付:2024/04/01
研究課題生物活性を有する海洋天然化合物のプローブ化と作用機序の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 大学院先進理工学研究科 助教 神平 梨絵
(連携研究者) 理工学術院 先進理工学部  教授 中尾洋一
研究成果概要
 海洋天然化合物は複雑で多彩な構造を有し、様々な生物活性を有することが知られている。細胞内における作用機序を明らかにすることは、創薬リード化合物へと応用展開していく上で必要となる。化合物を基にした化学プローブは細胞内局在や標的タンパク質の同定など、作用機序の解析に有効な手段である。本研究ではマウス骨髄性白血病細胞株P388細胞に対する細胞毒性を有するkapakahine Aの作用機序解析を試みた。これまでのkapakahine Aプローブを用いた実験により、標的候補タンパク質として3つのミトコンドリアタンパク質 (PHB1,PHB2,ANT2) が得られている。そこで本年は標的タンパク質の絞り込み、並びに作用メカニズムの解析を試みた。標的候補タンパク質ANT2はミトコンドリア内膜に局在してミトコンドリア内外のATP等の物質輸送に関わることが報告されている。このため、kapakahine AによるP388細胞内のATP量を調べたが、kapakahine Aによる細胞内ATP量の変化は認められなかった。また、PHB2はエストロゲン依存性の乳がん細胞においてBIG3と複合体形成し増殖に関わることが近年明らかになっている。そこで乳がん細胞株MCF7に対する細胞毒性を調べたが、kapakahine Aによる細胞毒性は認められなかった(IC50>20µM)。この結果から、BIG3-PHB2複合体を介した細胞増殖機構の阻害とは異なる経路で細胞毒性を引き起こす可能性が示唆された。細胞周期やアポトーシスともかかわるエピジェネティックな遺伝子発現調節へのKapakahine Aによる影響を調べるために、ヒストン修飾に着目した。化合物が与える影響を調べるため、細胞ベースのヒストン修飾アッセイシステムを用いて、24種類のヒストン修飾レベルを解析した。しかしながら、HeLa細胞を用いた実験の結果、濃度2 µMまたは10 µMでは、kapakahine Aによるヒストン修飾レベルの変化は認められなかった。今後はノックダウン実験などを通して標的タンパク質や分子経路の絞り込みを試みる。