表題番号:2023C-483 日付:2024/03/22
研究課題ALK陽性非小細胞肺がんの転移機構に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 仙波 憲太郎
研究成果概要
【研究目的】
本研究はALK陽性肺がんにおける骨、脳転移に関するメカニズム解明のために必要となる転移モデルの樹立を目的に行った。

【研究成果】
1. ALK陽性肺がん細胞株を用いた高骨転移株の樹立
細胞バンクより購入したALK陽性肺がん細胞株4種類(仮にA, B, C, Dとする)にルシフェラーゼ遺伝子を導入した後、尾動脈注射法により免疫不全マウスに移植した。その後1週間ごとに1回In Vivo Imaging Systemを用いて生物発光を検出することで造腫瘍能を評価した。
その結果、3種の細胞株A, B, Cは骨転移能を有したが、細胞株Dは骨転移巣を形成しなかった。また細胞株Aを移植したマウスでは、足の関節の破壊とマウスの歩行機能不全が確認されたことから、細胞株Aは強力な骨転移能を有していることが示唆された。細胞株Aの移植マウスから腫瘍を回収した後、再移植を行い、骨転移株を樹立した。一方で、細胞株Bは移植を計3回行ったが、移植を繰り返すうちにin vitroでの遊走能の低下やin vivoでの造腫瘍能評価で骨転移能が低下したことから、細胞株Bを骨転移のモデルとして使用することは不適切であると判断した。

2. ALK陽性肺がん細胞株を用いた高脳増殖株の樹立
1.の実験と同様の細胞株を用いて、頭蓋内移植法により免役不全マウスに移植し、造腫瘍能評価を行った結果、細胞株A, B, Cの3株が脳転移巣を形成した。また細胞株Bの再移植を行ったところ、脳環境での増殖速度が上昇したが、in vitroでの増殖アッセイでは親株と比較して再移植株の増殖速度は変化しなかったことから、この再移植株を脳環境でのみ増殖が速くなる高脳増殖株として樹立した。

【今後の展望】
今回樹立した骨転移株、脳増殖株を用いてALK陽性肺がんの転移メカニズム、及び骨、脳における増殖メカニズムの解明を目指す。親株や転移能の低い株とこれらの転移株の遺伝子発現をRNAシークエンスによって比較し、転移、増殖に関与する遺伝子を同定し、その遺伝子の過剰発現やノックダウンによって機能解析を行う。