表題番号:2023C-473 日付:2024/03/15
研究課題新しい重力理論の構築とその観測的な検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 辻川 信二
研究成果概要
 一般相対論およびその拡張した理論の検証を行うために,まずはスカラー・テンソル理論に基づくブラックホールと中性子星の解を構築した.その上で,ブラックホール-中性子星連星の合体前に放出される重力波の波形を理論的に計算し,将来の観測によって,中性子星が持ち得るスカラー荷に対してどの程度の制限がつけられるかについて考察した.特に,中性子星が自発的なスカラー化を起こす模型では,重力波の観測から模型のパラメータに強い制限を与えることが可能であることを示した.さらに,ガウス・ボンネ項と呼ばれる2次の曲率項がスカラー場やベクトル場と結合している理論において,静的球対称時空における
新しいブラックホール解を発見し,強重力場中での重力理論の検証に重要な示唆を与えた.それに加えて,ワイル曲率項や3次以上の曲率項が存在する系でのブラックホール解について調べ,解が線型摂動に対して不安定になるパラメータ領域について明らかにした.
 これらの研究に加えて,曲率の2次の項によって宇宙初期のインフレーションが引き起こされる模型において,ワイル曲率項が果たす役割について調べた.その結果,ワイル項の存在によって線形密度揺らぎが指数関数的に増大し,宇宙背景輻射の観測と整合的な密度揺らぎが生成されないことを示した.この成果は,スカラー曲率の2次の項によって引き起こされるスタロビンスキー・インフレーション模型のユニーク性を示した意味で重要な価値を持つ.
 さらに,宇宙後期の進化において,暗黒エネルギーと暗黒物質が結合した模型を新たに構築し,宇宙背景輻射などの観測から両者の結合に関する有意な証拠を得た.
 上記の成果は,7編の学術論文として執筆するだけでなく,名古屋大学,タイChulalongkorn
大学,京都大学での研究会において口頭発表し,特定課題による研究成果の幅広い周知を行なった.