表題番号:2023C-467 日付:2024/04/05
研究課題生体における結晶化現象としての痛風に対する機構解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 講師 小堀 深
研究成果概要

 高尿酸血症と呼ばれる血液の尿酸値が高い状態を放置すると、関節が赤く腫れて激しい痛みが襲う。この痛風は現在では約 110 万人の患者がいると推定され、その予備軍と考えられる高尿酸血症を罹患している人は 1000 万人を超えると考えられている。このような中で、痛風治療は投薬により痛みをやわらげる対症療法が一般的であり、疾患の根本的治療を目指す原因療法は行われていない。

 痛風は、体に溜まった過剰量の尿酸が、尿酸ナトリウム一水和物(MSU)の結晶となり関節炎を伴う症状が生じる病気である。よって、痛風の原因であるMSUの析出過程や析出の阻害に関する知見を深めることは有意義である。本研究では関節液を模したリン酸緩衝液中で、薬として用いられているクエン酸およびL-アスコルビン酸の添加による、MSUの析出挙動の変化の観察を行った。ここではMSUが析出した後に添加する場合とMSUが析出する前に添加する場合の2つの条件で実験を行った。それぞれHPLCを用いて尿酸濃度の経時変化を測定し、結晶の外形を光学顕微鏡により観察した。

 クエン酸およびL-アスコルビン酸をMSU析出後に添加した場合、尿酸濃度が増加し、MSUの溶解または析出の一時的な抑制が観察された。しかし、24時間以降は尿酸濃度が減少し、再びMSUが析出した。添加の濃度が高いほど、尿酸濃度の増加幅は大きく、MSUの溶解または析出抑制効果を増加させた。一方、MSU析出前に添加した場合、尿酸濃度は開始24時間以内において減少し、MSUの析出を抑制することはできなかった。ただし、72時間以降はL-アスコルビン酸を添加した場合にかぎりMSUの析出が抑制された。これらの結果より、クエン酸およびL-アスコルビン酸は結晶核の発生を抑える機構ではなく、結晶の溶解または成長阻害を起こす機構であることがわかった。L-アスコルビン酸はクエン酸よりもMSUの析出抑制効果が高く、薬としてより有用であることが示唆された。