表題番号:2023C-409 日付:2023/11/04
研究課題英国における影の取締役規制の進展経緯から探る会社等の実質支配者開示規制の行方
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 教授 中村 信男
研究成果概要
本研究は、わが国が金融活動作業部会の勧告等を受け反マネーロンダリング等の観点から、株式会社を対象とする実質的支配者リスト制度を創設し、2022年1月31日から運用を開始したことを受け、この面で先行するイギリス法制を参考に、立法論として、同制度をわが国の会社法における支配株主規制へと展開するためのキックオフ研究である。イギリス会社法は、株式会社の実質支配者をあぶり出す法的枠組みとして、20世紀初頭に、名目的な取締役の背後でこれをコントロールし会社を実質支配する影の取締役に対する法規制を導入した。もともと、この規制は、第1次世界大戦における英独の交戦関係を背景に、イギリスのコモンロー・ルールでもある対敵取引禁止規制の潜脱を防ぐ観点から公益保護目的のため採り入れられた。しかし、同規制は、会社の業務執行が支配株主等の影響を受ける取締役により行われると、当該会社の株主・債権者の利益を損なう危険があることから、会社業務の歪曲化を防止・是正するための規律へと進展し、今日に至っている。このように、イギリス会社法が、会社制度の反公益目的による悪用の防止のみならず、株主・債権者の利益保護の観点から、会社を実質支配する支配株主等をあぶり出し、これに適切な法的規律を及ぼすものとして発展を遂げてきたことを踏まえると、同法が実質的支配者に係る開示規制を会社法に組み入れたことは、当然のことと考えられる。わが国の会社法が公益保護の要請を法目的に含め得るかは議論の余地があるが、イギリス会社法との比較法研究から、会社の実質的支配者に係る透明性の確保が、一般株主や会社債権者の利益保護を図るコーポレート・ガバナンスの問題でもあることが分かる。本研究は、イギリス法との比較法研究を通じ、わが国における立法論として、実質的支配者開示規制を会社法上の規律として法制化し体系的な支配株主規制へと展開する可能性を明らかにした。