表題番号:2023C-381 日付:2024/04/03
研究課題日本の養殖業経営体における生産・販売リスクへの対応に関する地理学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 助手 穂積 謙吾
研究成果概要
 本年度は,日本の海面魚類養殖業(以下,養殖業)における経営体が,生産・販売面のリスクである漁場環境および市場環境の変化に直面する中で,どのように経営を維持しているのかを検討した。本年度の成果は以下の4点に集約される。  第1に,宮城県のギンザケ養殖業経営体がどのように生産額を増加させたのかを検討した。経営体は,生産活動を通じて生簀1基当たりに搬入する種苗の数量を増加させ生産量を増やすとともに,出荷活動を通じて魚の単価の著しい下落を防ぐことで,生産額の増加を実現したと明らかにした。一連の成果は,国内の地理学における代表的な学術誌の一つである『地理学評論』に掲載された。  第2に,大分県佐伯市入津地区を事例として,赤潮の頻発する海域における経営体がどのように経営を維持してきたのかを明らかにした。経営体は平時における収入の増加と支出の削減を通じて,赤潮の被害に見舞われた際の損失を相対的に抑制するとともに,赤潮発生時の迅速な対応を通じて収益の下落に直結する魚の斃死を防止し,経営を維持してきたと結論付けた。一連の成果は,2023年9月の日本地理学会秋季学術大会にて報告した。  第3に,養殖業に関連した統計資料を整理した。結果,多くの産地における大規模経営体の成長と,少数の産地における中小規模経営体の存続を通じて,日本の養殖生産額が維持されていることを明らかにした。一連の成果は,2024年3月の日本地理学会春季学術大会にて報告した。  第4に,養殖業に関する国内外の地理学および隣接分野の研究を整理した。結果,国内の地理学および漁業経済学の研究では個々の経営体の経営維持に向けた経済活動に,海外の地理学研究では養殖業が社会・経済・自然に及ぼす影響に,それぞれ焦点が当てられていることを明らかにした。一連の成果は,2023年6月のIGU Thematic Conferenceにて報告した。