表題番号:2023C-376 日付:2024/03/31
研究課題公立小学校における英語イマージョン教育とトランスランゲージング
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 原田 哲男
研究成果概要
言語以外の教科学習を母語と第二言語で行うイマージョン教育は1965年にカナダで始まって以来、長い歴史がある。日本でも数年前から公立小学校で英語イマージョンプログラムが導入され、従来の北米や日本の私立小学校のモデルとは異なり、大変興味深いカリキュラムである。伝統的な北米のカリキュラムでは、どの教科またはどのユニットをどちらの言語で教えるかを規定され、授業中に複数の言語を同時に使用しないことになっている。一方、日本の公立小学校での英語イマージョン教育では、国語と道徳以外を英語で教えるカリキュラムを採用しているが、両言語でのサポートを可能にするために英語話者と日本語話者の教員がティーム・ティーチングを行い、児童の理解を促進するために日本語での説明や児童の言語選択も自由に行われている。このような手法はトランスランゲージング(両言語を行ったり来たりして使うこと)と言われて、教育的効果が高いと言われている(Cenoz, & Gorter 2021; Rabbidge, 2019)。
 本研究の目標は、当該の公立小学校への訪問を複数回行い、授業見学、管理職や担当教員との話し合い、教員研修会への参加を通して、様々な観点からカリキュラムや指導の実際を把握し、授業中のトランスランゲージングの使用とその効果を観察することにある。まだ研究は継続中であるが、次のようなことが暫定的に言えそうである。まず、児童間には授業が英語であることへの抵抗感はなく、適切な日本語使用により教科の内容理解が促進されている。例えば、教員による英語での算数や社会の難しい概念の説明後に、児童が日本語で確認する場面もあり、大切な概念を両言語でしっかり理解できている。さらに、授業中に児童の「英語で言うとどうなる?」などの発話も自然に出ており、両言語で表現したいという意識も高い。最後に、トランスランゲージングの使用は、目標言語のインプットやアウトプットが減少するという不安もあるが、両言語を自由に使えることによって教科学習への不安もなく、学年が上がるにつれて、授業中に使われている英語は確実に理解できるようになっており、それに従って表現力も着実に習得されつつある。