表題番号:2023C-374 日付:2024/03/23
研究課題現代日本の戦争表現に関する研究基盤の構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 五味渕 典嗣
研究成果概要
 本研究では、主に2000年代以降の日本で発表された戦争表現の特質と問題点を明らかにすることを目指し、以下の研究活動を行った。

(1)2001年の米国同時多発テロ事件以後の日本文学・映画における戦争表象について、リービ英雄、岡田利規、目取真俊、伊藤計劃らのテクストを取り上げ検討した。また、過去の日本の戦争記憶、とりわけ帝国と植民地の問題がどのような形で召喚され、物語化されたかについて調査と分析を行った。関連して、2015年の「戦後70年」のタイミングでリメイクされた原田眞人監督の映画『日本のいちばん長い日』を取り上げ、この作が1990年代以降の天皇制研究の進展を取り込む一方で、昭和天皇の「聖断」を戦後日本の起源と位置づけるナショナルな神話を積極的に上書きしている様相について論文を執筆、学内紀要に投稿した。

(2)現代日本における歴史実践の現場に赴き、フィールド調査を行った。10月には北海道旭川市、2月には沖縄県宜野湾市・糸満市を訪れ、北鎮記念館・旭川兵村記念館(旭川市)、佐喜眞美術館(宜野湾市)、沖縄平和祈念資料館(糸満市)等で、思想的政治的には立場の異なる各施設が過去の日本の戦争・戦場をどのように語り、どんなスタイルで現在のオーディエンスとの接触と交渉を企てているかを確認した。また、それらの施設付近に設置されたモニュメントが喚起するイメージの政治について調査と検討を行った。

(3)関心を同じくする研究者と議論を重ね、現代日本における戦争の語りが戦時・戦後をまたぐ日本社会の歴史意識の切断と密接に関係していること、また、文学・絵画・写真などの表現媒体を跨ぐかたちで、こうした切断と批判的に対峙している表現者の仕事に重要な問題提起が内包されていることを確認した。今後さらに議論を深化させ、2024年度の科研費申請に備える予定である。