表題番号:2023C-372 日付:2024/02/05
研究課題成人期知的ボーダーライン者の課題と社会参加への支援
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 梅永 雄二
研究成果概要

本研究では、我が国では一般に認識されていない知的ボーダーライン者の問題を成人期の社会参加の困難さといった視点から外国の文献をベースに研究を行った。

知的ボーダーラインとは、英語ではBIF(BORDERLINE INTELLECTUAL FUNCTIONING) と記され、知能検査によるIQ値が概ね7084の範囲であり、近年我が国では「境界知能」という表現が用いられることもある。

 つまり、IQは平均以下だが知的障害と診断される水準以上であることを特徴とする。

 BIFは、アメリカの精神障害診断統計マニュアルであるDSMや国連WHOにおける国際疾病分類ICDによれば、医療的アプローチが必要な障害には含まれてはない。

しかしながら、BIF児者は、社会の複雑化により、多くは適応機能に問題を抱えている。具体的には、BIF者は話すことや書くことに遅れがあり、行動と結果を結びつけることに困難があるため学校教育時代における学習が困難である。行動としては、衝動的に行動してしまうことがあり、教師に注意を受けても自分にどのような問題があるのかを理解できていない。

成人期に達すると、就労面において特にストレスの多い仕事やペースの速い仕事で、仕事を維持するのに苦労する。よって、BIF者は不安定就労や失業などの生活を送り、常に気を張って生活しているにも関わらず、社会の他の人々からは気づかれていないといった現状を呈している。

また、BIF者は周りの無理解から、精神衛生上の問題を発症しやすく、知的障害者よりも社会生活を営むことが困難である可能性がある。欧米の研究では、薬物誤用や人格障害など、ほとんどすべての精神疾患の発症リスクが、小児期だけでなく成人期においても高いことが示されている。その結果、就労できない場合は、経済的な問題に対処するため、犯罪に手を染めることが数多く報告されている。

以上のことから、知的ボーダーライン児者の教育、福祉、就労といった側面から、どのような課題が生じていて、まだどのような支援が必要かについてまとめた。