表題番号:2023C-369 日付:2024/04/02
研究課題東アジアの家庭教育にみる家族の記憶と文化継承
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 小林 敦子
研究成果概要

本研究は、「家族の記憶」が、どのように次世代に継承され、子どもの社会化においていかなる役割を果たしているのかという視点から、戦後(1945年~2020年代)における東アジア地域(日本、中国、韓国、台湾)の家庭教育を比較検討する。とくにB.バーンスティンの文化伝達理論の枠組みを応用して、家族の記憶を、食、住まい(家)、娯楽と文化、年中行事などに焦点を当てて検証していく。本研究では、家族における文化伝承の担い手としての女性に注目し、祖母(80代前後)―母(50代~60代)―娘(20代~30代)の3代に対するライフストーリー・インタビューの手法用いて分析する。

さらに本研究においては、アジア・太平洋戦争に伴う家族の苦難の記憶の克服と次世代継承のありようを包括的に考察する。戦時下から戦後にかけて越境した日本人引揚者、エスニック・マイノリティといった家族を視野に入れた文化伝達の教育社会学的研究はまだ少ない。社会の周辺に位置する家庭を視野に研究を行うことで、東アジア社会における家族の記憶の想起と交流の上に構築される平和を希求する新たな家庭教育研究の理論化と実証を目標とする。

2023年度においては、東京、札幌、那覇、豊中において、3世代(祖母―母―娘)、もしくは2世代(祖母―母)に対するインタビュー調査を試行的に行いながら、質問票を確定した。また、家族の記憶の中で、とくに「食」を中心とした調査を行った。上の世代の「食」が下の世代の「食」へと継承されている傾向が全体としてはうかがわれた。また、「食」によって、家族がつながっていること、「食」によって家族の記憶が次の世代に継承されていることも指摘しておきたい。しかしながら、共稼ぎの増加に伴い外食が増加する傾向も顕著であり、このことが、家族の記憶の継承にどのような影響を与えているのか、今後、引き続き検証していきたい。