表題番号:2023C-367 日付:2024/03/31
研究課題高温高圧下での中性子回折実験による原始地球の軽元素取り込みの解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 准教授 飯塚 理子
研究成果概要
本課題では、地球深部に存在する鉄化合物の中に取り込まれる軽水素の挙動を探究することを主な目的としている。地球の核を構成する重要な要素である鉄と軽元素との相互作用は、地球の内部構造やダイナミクスに関する理解を深める上で重要な意味を持つ。特に、地球コアに溶け込んでいる軽元素の中で水素は最も有力な候補の一つとされており、その存在形態を解明することは、地球の磁場生成や深部における物質循環の理解に対して新たな視点を提供する。
本研究では、放射光X線とパルス中性子線を組み合わせたマルチ量子ビーム技術を用いた実験的アプローチにより、高温高圧条件下での鉄と水素の反応機構についての詳細なデータを取得し、地球内部における軽水素の存在形態を明らかにすることを目指した。
具体的な実験手法として、まず放射光を用いた高温高圧下でのX線回折その場観察を行った。ダイヤモンドアンビルセルやマルチアンビルプレスを用いて、10-15 GPa、1000-3000Kの極端な環境下で水や水酸化物を水素源にして、炭酸鉄と水(水素)との反応を調査した。この過程で、未知の副生成物の出現を観測し、さらに回収した試料を電子顕微鏡で観察することで、金属化した形跡や鉄の酸化還元状態の変化による析出などの現象を確認した。
これまでの結果から、地球深部の条件下で鉄がどのように水素と反応するか、そしてその過程でどのような物質が生成されるのかについて、貴重な洞察を得ることができた。しかし、新たに観測された生成物の詳細な結晶構造や組成については、まだ同定されていない。そのため、今後はさらなる分析と実験を重ね、未知の化合物の特定を進める予定である。最終目標として、高温高圧下でのその場観察により、鉄と水素の相互作用に他の軽元素がどのように影響を及ぼすかを明らかにする。本研究は、地球惑星科学や物質科学の分野においても重要な意義を持つと期待される。