表題番号:2023C-353 日付:2024/03/30
研究課題近現代日本文学におけるトラウマとケア
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 坪井 秀人
研究成果概要
トラウマ研究やケアにかかわる思想の進展を日本近現代文学の分野でとらえ直す研究に着手するための予備的研究として「近現代日本文学におけるトラウマとケア」という課題に取り組んだ。申請者は戦後日本文化に関わる共同研究や編者として刊行した『戦後日本の傷跡』(臨川書店、2022)などの論文集において「傷跡」という概念に基づいてトラウマやケアの問題を扱ってきた。本課題研究においては最新のトラウマやケアに関する理論的研究や批判理論に学びながら、テクストの分析を通して文学というシステムの中に潜在する同性愛やディスアビリティなどマイノリティに対する差別や暴力という側面を可視化させ、そうした差別や暴力の側面ばかりではなく、文学という領域がクィアな領域に同時代的かつ予言的に深くコミットしてきたこと、そしてそのクィアの同一性を徴づける境界線が流動していることを考察した。その成果の一部として「流暢さに抗する──吃音小説論序説」(『昭和文学研究』第88集、2024・3)という論考を発表し、この中で吃音という現象を生み出した「流暢さ」という発話規範に関わる標準化の権力がいかにして歴史的に構成されたかを、主として三島由紀夫の小説『金閣寺』における吃音的美学の分析と金鶴泳の短篇「凍える口」なとの比較を通して考察した。さらに『日本近代文学』のトラウマ特集に津島佑子の小説『ジャッカ・ドフニ』を取り上げた論考を寄稿し(入稿、校了済)、、トラウマとケアという視点から考察を行った。また2024年度の科学研究費・挑戦的研究(萌芽)に「傷/傷跡としての戦後日本──ポスト冷戦期における生政治と文学」という研究を若手研究者の協力を得て代表者として申請した(採択については現時点では未定)。