表題番号:2023C-352 日付:2024/04/03
研究課題炭鉱への労働者の移入に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 嶋崎 尚子
研究成果概要

石炭産業は総合産業であり、炭鉱労働は多種多様な作業からなる。そのため炭鉱での労働力編成は、吸収力と流動性を特徴とする。「炭鉱にいけば仕事があり飯が喰え」たのである。これまでこの特性を前提に、石炭産業の衰退過程での労働者の炭鉱からの移出に関する実証研究を蓄積してきた。2020年からは樺太引揚者の炭鉱への移入に関する研究に着手した。本研究は、炭鉱労働者の移入に関する基礎的研究である。具体的には北海道と九州の大手炭鉱と福島県の常磐炭鉱を主対象に、1950年代以降の労働力編成に関する基礎的情報を収集し、その全体像把握にむけた基盤を構築した。主要には石炭産業統計である「石炭統計年報」(昭和24年度-昭和29年度)、「石炭・コークス統計年報」(昭和30年度-昭和45年度)、「北海道石炭統計年報」(昭和46年度-平成6年度)を用いて労働力構成・移入・移出・勤続年数をデータ化した。これらをもとに、三井芦別炭鉱への労働力移入の詳細を分析した。その成果は、「ビルド鉱三井芦別の人員確保と労働者の定着」(嶋﨑・西城戸・長谷山編『芦別 ―炭鉱〈ヤマ〉とマチの社会史』(寿郎社、2023)の第2章)である。

さらに常磐炭鉱については、1946年以降の同炭鉱における全ての採用解雇データベース(2006年度までに構築済み)の分析を開始した。本「採解簿」データベースには、1946-1971年までの採用10,514件、解雇13,912件が登載されている。データ概要を把握したところ、同炭鉱においては近郊農村からの「季節夫」(半年間程度)の採用が常時一定数なされていたことが判明した。それらの「季節夫」は特定の農村から継続して移入し、該当者が出身地に「常磐会」を組織していた。残念ながらこれらの事実については全く記録が残されていないため、早急な情報収集が必要と判断し、20243月から複数の移出元農村を訪問し、関連資料の収集と関係者へのヒアリングに着手したところである。