表題番号:2023C-350 日付:2024/03/30
研究課題文化伝達に嗜好が及ぼす影響の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 准教授 田中 雅史
研究成果概要
本研究は、文化伝達を行う際に、生得的または後天的な選好が及ぼす影響を明らかにするために、スズメ亜目の一種であるキンカチョウという、ヒトと同様、自発的に音声の文化的伝達を行う鳥とともにヒトを対象とした実験も行ってきた。本年度は、キンカチョウの音嗜好においてオスとメスの間に性差が認められ、メスでは経験に依存した嗜好が行動に大きい影響を与えるのに対し、オスでは新奇な抽象的音響に対する嗜好が形成されていることを確認した。しかしオスが高い嗜好を示す対象であっても自らの歌として必ずしも学習しないことも明らかになっており、嗜好の歌の文化伝達への影響は限定的であることが明らかになりつつある。一方、ヒトにおいて新奇な歌を模倣学習する文化伝達実験において、わずかながら映像呈示や情動喚起による模倣の促進効果が認められている。特に情動と連合させた音声の呈示によって、その音声へのネガティブな評価が減少し、ポジティブな評価が増大している現象は、嗜好による文化伝達促進のみならず、逆向きの、文化伝達によって嗜好が形成されるという要因の存在を示唆するものである。今後、こうした嗜好と文化伝達との詳細な相互作用を解明するために、キンカチョウとヒトを対象に、より要因を絞った実験を実施し、音声の文化伝達における嗜好の貢献を探究したい。