表題番号:2023C-349 日付:2024/02/06
研究課題形態類似語の性質が語の形態-意味対応の一貫性効果に及ぼす影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 日野 泰志
研究成果概要
語彙判断課題の成績に語の形態-意味対応の一貫性が効果を持つことが報告されている(Marelli & Amenta, 2018; Marelli, Amenta & Crepaldi, 2015; Siegelman, Rueckl, Lo, Kearns, Morris & Compton, 2022)。一方、Tachibana, Kida & Hino (2020, November)は、日本語を使って語の形態-意味対応の一貫性を操作した語彙判断課題を実施したところ、行動データに有意な効果を観察することができなかった。これらの研究では、一貫性を計算する際に使用した形態隣接語の種類が違っていた。そこで、本研究では、形態隣接語の種類の違いが、形態-意味対応の一貫性効果にどのように影響するのかについて検討した。単一形態素からなる英単語に対して、一文字置き換えによる形態隣接語、一文字追加による形態隣接語、一文字削除による形態隣接語を生成し、これら三種類の形態隣接語から別々に形態-意味対応の一貫性を計算し、これら三種類の一貫性の効果をBalota, Yap, Cortese, Hutchson, Kessler, Loftus, Neely, Nelson, Simpson & Treiman (2007)の語彙判断課題データを使って検討した。その結果、一文字追加隣接語から計算した一貫性による効果は観察されたものの、他の二種類の一貫性による効果は観察されなかった。そこで、英語母語話者を対象に語彙判断課題を行い、一文字置き換え形態隣接語と一文字追加形態隣接語から計算した一貫性効果の観察を試みたところ、一文字追加隣接語による一貫性効果は有意だったものの、一文字置換形態隣接語による一貫性効果は観察されなかった。英単語の場合、1文字追加隣接語の多くは、ターゲット語と形態素を共有するものが多いことから、一貫性効果は、主に、ターゲット語と形態隣接語との間の形態素の共有による効果である可能性が高いことが明らかとなった。さらに、形態素を共有しない文字追加形態隣接語は、ターゲット語の語彙判断に抑制効果を示す可能性があることも明らかとなった。