表題番号:2023C-347 日付:2024/03/24
研究課題地方都市の多様な個性を生み出すメカニズムに関する社会学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 講師 野坂 真
研究成果概要
 日本にはそれぞれに個性を持つ地方都市が多く存在している。そうした多様性が日本社会全体の「面白み」をつくり出しているとも言える。そこで、地方都市が持つ多様な個性がいかに生み出されるのか、岩手県盛岡市・花巻市・二戸市を中心的な対象地域として、地域産業論や創造都市論などに立脚し、文献調査とフィールドワークを行った。調査の結果、次の3点が分かった。第一に、本研究では当初、地方都市を、商業都市、工業都市と大きく分類した上で、①-1旧城下町の側面が強い都市、①-2旧宿場町や旧門前町の側面が強い都市、②-1大規模開発誘致の歴史を持つ都市、②-2地場産業を有する都市、とさらに分類していたが、分類の見直しが必要である。少なくとも岩手県(旧南部藩領)においては、支配の拠点としての枝城やそれに準ずる拠点(例:江戸時代以前までの城が代官所となったものなど)が多数あり、それらが旧宿場町も含めた地方都市としての発展の始点となっていると言える。そのため、岩手県のように地方都市同士が地理的に隔絶されている地域では、①-1①-2は重複していることが多いことや、江戸時代以前の城下町の歴史も調査することが前提となる。第二に、各分野のアマチュアの存在と多様な活動拠点に注目することが重要である。例えば、盛岡市では、美術等を専門に学んだ人々が美術館やギャラリーなど公的な施設で作品展示を行うだけでなく、半分趣味で作品づくりなどを行う住民が喫茶店の一角を借りるなどして作品展示をすることも多い(一種のコミュニティ・アート)。各分野の活動に関わる主体の裾野の広さと主体同士の接点の多様さが、その土地ならではの個性や価値観、歴史観を生み出していると言える。第三に、地域外からの情報や技術がローカライズされてきた経緯への注目が必要である。例えば、二戸市の浄法寺塗や花巻市の用水路開発、盛岡市の市街地形成においては、遠地から技術集団や商業集団等を受け入れることで発展・変容してきた経緯があり、それが地域の特性に重要な影響を与えている。今後は、1つ1つの地域の事例をさらに掘り下げつつ、他県の城下町同士や地場産業産地同士の比較なども検討したい。