研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 法学学術院 法学部 | 講師 | 吉田 曉永 |
- 研究成果概要
本研究は、特定のテーマを扱う国連人権条約を素材に、①国連人権条約機関がいかに解釈しているのか、また、②解釈が行われる一般的意見の作成にどのような利害関係者が参加しているのか、そして、③そうした解釈がどう受け入れられているのかを検討した。
①について、従来の研究は、人権条約機関が目的論的解釈を採用しており、条約法条約上の条約解釈規則の想定していた解釈手法とは異なると指摘してきた。しかし、国連人権条約機関全体では、文言や起草過程における議論によって支持されない解釈が採用される傾向にある。それゆえ、条約解釈規則との比較はあまり有益でない。
②について、国連人権条約機関は、締約国全体に解釈を示す一般的意見において、そうした文言や起草過程における議論では支持されない解釈を採用する。その背景には、NGOなどの利害関係者の存在があった。例えば、2017年の女性差別撤廃委員会による一般的勧告35号と、2014年の障害者権利委員会による一般的意見1号の背景には、市民社会のロビイングがあった。
③について、女性差別撤廃委員会の一般的勧告35号は、日本における性犯罪に関する2度にわたる刑法改正が行われ、この一般的勧告は強く影響を与えている。他方で、1度目の改正において夫婦間の強かんが明示的に犯罪化されなかったように、一般的勧告が締約国によって受け入れられるかは、締約国の統治機構や法文化に影響される。しかし、対立が解消されないわけではない。例えば、障害者権利委員会は一般的意見1号において成年後見制度を禁止する解釈を示したが、内閣府に設置されている障害者政策委員会は、最終手段としての法的能力の制限を認める解釈を行っている。女性差別撤廃委員会の一般的勧告35号に関する報告は、3月にウズベキスタン人権センターで行った。他方、障害者権利委員会の一般的意見1号に関する報告は、6月にアジア国際法学会日本協会研究大会で行う予定である。