表題番号:2023C-320 日付:2024/03/16
研究課題リプロダクティブジャスティス概念の憲法学的分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 助手 春藤 優
研究成果概要
 本研究課題では、手続的権利保障概念の背景にある法的な「公正さ」と、近年のフェミニズム運動において着目されており、生殖の公正さ及び正義を追求すると言われている「リプロダクティブ・ジャスティス(RJ)」概念がどう接続しうるのか、あるいはしないのかを分析することを通じて、生殖の権利保障に果たす客観的法原則の役割とリプロダクティブ・ジャスティスの関係を明らかにすることを研究課題とした。
 研究課題に取り組むにあたり、まず「リプロダクティブ・ジャスティス」という言葉が生み出される過程を歴史的に分析した。その中で、「リプロダクティブ・ジャスティス」が社会正義の文脈にあると言及があり、社会正義(Social Justice)についても概念分析を行った。社会正義については、狭義においては分配的正義概念と同義であるとの指摘もあり、この指摘を踏まえて、政治哲学と憲法概念について論じた文献を参考にして、本研究課題への応答に取り組んだ。
 本研究課題の結論として、RJ概念をいくつかのレイヤーに分けて考えた場合に運動論のタームとして維持し続けることが、さしあたりRJ概念を最も生かすことになると考えられる。RJは、歴史的には白人中流階級女性中心の運動へのプロテストとして誕生した。この意味で、RJは生殖に関するフェミニズム運動が、常に特定の属性を「中心化」していないかを批判的に検討する視座を提供する。一方、政治哲学概念と接続した場合は、普遍的な「公正」概念に吸収されるか、フェミニズムとリベラリズムの対立論争へと収れんされてしまい、概念としての鋭さを維持しえない。したがって、RJは、法学分野の外での社会の動きを参照する指針とはなり得ても、法的概念として法律論に取り込むことは困難であるように考えられる。