研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 法学学術院 法学部 | 助手 | 森 綾香 |
- 研究成果概要
本特定課題研究では「特許法における『自然法則の利用』要件の比較法的研究」を行なった。概要は以下の通りである。
【I】国内裁判例の分析
非ソフトウェア関連発明の裁判例では、自然法則の利用が否定されるのは以下の三パターンのいずれかor組み合わせによってであった。(1)発明の構成中でそもそも自然法則が用いられていない、(2)自然法則が用いられていたとしてもそれが単なる道具としての利用であり、物の本来の機能が発揮されているだけでありそれだけでは自然法則の利用と評価できない、(3)自然法則が用いられていたとしてもそれが発明の重要な部分(特徴・課題解決の主要な手段・技術的意義に照らし全体として見た中)には自然法則が用いられていないために自然法則の利用と評価できない。
非ソフトウェア関連発明のケースだけに着目しても、自然法則の利用に物理的性格を求めないことの是非(人間の認識・反復継続性)、判断中の「全体として」文言の意義(発明の効果の部分に自然法則が用いられているとき、自然法則の利用を肯定して良いか)、「技術的意義」の意義等について判断基準の揺らぎがある。
【II】「自然法則の利用」要件 - 外国法(特に独仏)での取扱い
日本法上の「自然法則の利用」要件は19世紀ドイツ発祥の「自然力」概念に由来するが、当のドイツを含めた欧州ではそれを要件として直接に用いてはおらず、別の概念「技術的性格」を判断基準としている。
「技術的性格」は、(1)自然の変容と捉える見方と、(2)実行可能な有用性として捉える見方が存在してきた。(1)の方が通説であったとされている。
同要件の先駆である「産業的性格」の有無の判断の際、ドイツでは、産業的結果を求めないという(フランスに比べれば相対的に緩やかな)判断をしていたために、単なるアイデアを別建てで規制する必要があった。そのために用いられたのが「自然力」であった。
欧州において「自然の変容」基準が一部から疑念が投げかけられている向きのある現在、日本の自然法則の利用要件をも再考すべきであると言えそうか、更なる調査・検討の余地がある。