表題番号:2023C-311 日付:2024/04/03
研究課題宝巻の変遷史における明末清初の物語宝巻の流伝状況についての研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 准教授 辻 リン
研究成果概要

本課題の段階的研究成果として、論文「『続金瓶梅』に見える「蓮女成仏公案」をめぐって」を発表した。本稿においては、『続金瓶梅』第三十八回に見える『花灯轎蓮女成佛宝巻』を一つのモデル作品として、その形式と内容について分析し、それを通して明末清初における宝巻の転換期の様相の一端をうかがえる。

明末から清の嘉慶以前まで、物語宝巻のスタイルは、教派宝巻はますます複雑化になっていき、教派でない民間の宝巻、すなわち因果応報を説く民間の物語宝巻は簡略になっていくという変化の傾向が認められる。とりわけ、現存する清初の江南地域の宝巻は、明末の中原地域で大流行した宗教教派による影響がほとんど見られなく、より娯楽化、簡単化したという地域的特徴が見られる。明末清初の北方宝巻におけるスタイルは七言または五言の詩讃は、その直前の散文(説)の内容の繰り返しであるのが一般的である。『続金瓶梅』は清初の山東で成立したが、しかしその中で見える『花灯轎蓮女成仏宝巻』の全体的スタイルはむしろ、当時の江南地域の宝巻に見られるような簡略なスタイルになっている。

『花灯轎蓮女成仏宝巻』の存在は、順治年間以前に因果と説く仏教説話の宝巻は形式において、すでに早期の仏教宝巻よりかなり簡単化したことを示唆する。清初の教派宝巻の中心地とされる中原地域では類例を見ないスタイルを見せている。同時期の江南地域の宝巻と物語化、娯楽化した仏教宝巻と類似する形式が見られるのが興味深い。『続金瓶梅』の作者丁耀亢は山東の人であるが、江南を遊歴したことがあることから、明末清初の江南で流行した宣巻の形式を取り入れて書いた可能性も否めない。また物語の内容の分析から分かるように、『花灯轎蓮女成佛宝巻』は当時すでに成立し流布していた単行の宝巻ではなく、作者丁耀亢が説経類の一種とされる話本物語「花灯轎蓮女成佛記」をそのまま引用し宝巻化した可能性が極めて大きいと思われる。