表題番号:2023C-295 日付:2024/04/05
研究課題ドイツ語の話しことばにおける心態詞を含む発話の音声的特徴について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 政治経済学部 教授 生駒 美喜
(連携研究者) Humboldt Universitaet Berlin Akademische Mitarbeiterin Zobel, Sarah
(連携研究者) Universitaet Halle-Wittenberg 名誉教授 Hirschfeld, Ursula
研究成果概要

本研究は、パラ言語情報を表すドイツ語心態詞schonを含む発話を知覚と生成の両面から分析することにより、発話意図と、ピッチや持続時間などの音声特徴との関係を明らかにするものである。これまでの心態詞schonの研究においては、「反論」および「留保付肯定」の発話意図を示す場合に、schonにアクセントが置かれる場合と置かれない場合とがあり、schonにアクセントが置かれる場合と置かれない場合との意味的な違いやその原因に関しては明らかにされてこなかった。Ikoma (2023)では、schonのアクセントの有無にはschonから発話末までの距離といった音声的な要因が関わる可能性を指摘している。

本年度前半は、前年度末に行った発話実験のデータを用いて知覚実験を実施し、「反論」の発話として知覚された発話におけるschonのアクセントの有無と音声特徴を調べた。その結果、「反論」と知覚された発話は、schonではなく動詞部分にアクセントが置かれ、ピッチピークが遅れるL*+Hのアクセントパターンが多く見られた。

さらに本年度後半は心態詞schonに関して新たな生成・知覚実験を行った。4種類の動詞(kommen, helfen, fehlen, bleiben)を含み、schonが文末および文中に置かれる全部で短文の発話を「反論」および「留保付肯定」の状況に対応する会話文に埋め込み、生成・知覚の両面から分析したところ、「留保付肯定」の状況下では、schonが文末に置かれる場合にのみ動詞にピッチアクセントが置かれており、その他はschonにピッチアクセントが置かれる場合が多く見られた。このことから、schonのアクセントの有無には、一定程度の意味的な要素が関わっている一方で、発話のリズムといった音声的要因が働いていることが示唆された。さらに、「反論」として知覚された発話は、「留保付肯定」と比較して文のピッチの変動幅が大きく、ピッチピークが高く、アクセントが置かれるschonのピッチ変動幅が大きく、第一フォルマントが高く、発話末のピッチはほとんどの場合に下降するという特徴が見られた。