表題番号:2023C-292 日付:2024/02/26
研究課題分子結晶の機械学習ポテンシャル開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) データ科学センター 准教授 谷口 卓也
研究成果概要
分子結晶は創薬や材料科学などの多岐にわたる分野で研究されている。開発過程ではトライアンドエラーが必須であり、多大なリソースを要する。分子結晶の効率的なデザインを実現するためには、実験前の分子スクリーニングが有効である。そこで本研究では、分子結晶向けの機械学習ポテンシャル開発を目指した。
本年度はまず、既存の機械学習ポテンシャルであるPreFfered Potential(PFP)の精度を評価した。分子結晶の弾性特性は、医薬品および材料応用において重要だが、弾性定数テンソルの理論計算は計算コストが高い。PFPを用いた分子結晶の弾性率予測の可能性を評価したところ、実験値との十分な一致を示し、ハートリー・フォック計算を上回る性能が確認された。また、ナノインデンテーション測定による特定方向でのヤング率を精密に予測できること、およびヤング率の大きさと結晶構造の関係が明らかになった。分子結晶の弾性率データベーススクリーニングによって、大きな弾性率を有する結晶と小さな弾性率を有する結晶の両方が提案された。
続いて、Materials Projectで学習した機械学習ポテンシャルであるCHGNetに有機結晶データを追加学習させた際の効率を調査した。Materials Projectは無機結晶を中心とした計算データベースであるため、追加学習を施さない場合、有機結晶のポテンシャル計算には大きな誤差が生じる。少量の有機結晶データを追加学習することで予測精度が向上することが確認された。追加学習では、学習率1e-3では精度が改善しなかったが、学習率を1e-2に調整することで予測精度が改善された。これは、無機結晶に特化したニューラルネットワークのハイパーパラメータを、より汎用的なハイパーパラメータに遷移させるため、勾配の谷を超える必要があるためと考えられる。