表題番号:2023C-288 日付:2024/04/05
研究課題地域の育英事業展開に関する研究-旧藩主家の関与が小さい地域を事例に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学総合研究センター 講師 遠藤 健
研究成果概要

本研究は、明治・大正・昭和初期において、旧藩主家の関与が小さい地域を事例に育英事業(なかでも上京遊学者を対象とした寮(寄宿舎)事業)がどのように展開してきたのかを明らかにすることを目的とした。

事例としたのは、2つの地域の育英事業である。1つ目は、北海道の北海寮であり、2つ目は奈良県の養徳学舎である。この2つの事業に共通したのは、旧藩主家の関与が見られないものの現在まで長期的に運営されている特徴がある。これまでの調査研究では、学生寄宿舎(寮)の育英事業を創設する上では旧藩主家がパトロンとなり、土地や資金を提供するケースがほとんどであった。従って、事業を創設できたのは、比較的旧藩として力のあった地域に偏っており、自地域の人材養成に寄与する育英事業の展開には地域間の差が生じていた。対象とした2つの寮はいかにして、その不利を克服したのかを沿革史や団体が発行する史資料から分析した。

いずれの事例にも共通していたのは、在京学生の組織が作られていたことであり、寮建設は他地域を意識して早くから検討されていた点である。しかし寮建設が実現するには他地域の寮と比較して多くの時間を要していた。それでも建設に至ったのは、学生時代からリーダーシップを発揮した人物が寮建設のために活動を継続したことが大きい。養徳学舎では、学生時代から寮建設に30年程度活動し続けた人物がおり、北海寮では、在京学生であった人物がその後大蔵官僚となり、土地の確保に貢献していた。

このように、育英事業、なかでも寮事業については旧藩主家の関与がない場合には、寮建設までに時間がかかる。今回対象とした建設に至った事例では在京学生の組織があり、当時の学生が卒業後も寮建設のために活動したことが事業を創設するにあたって大きな要因となっていた。