表題番号:2023C-264 日付:2024/04/05
研究課題地理的事象の複雑なつながりを理解するための学習方法の検討~農業遺産を事例にして~
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 佐々木 智章
研究成果概要
地理学習で取り扱う事象は、自然事象から人文事象までと幅広い。またそれらが有機的につながることで地域的な特徴を見出すことができる。一方で複雑な事象のつながりをいかに理解するかは中等教育段階の地理学習における大きな課題である。そこで本研究では様々な事象のつながりを理解させるための方法について農業遺産を事例にして検討した。検討のために現地調査を行った宮崎県宮崎市の「干し野菜と露地畑作の高度利用システム」を教材として利用した。実践では、この農業遺産の概要について農業遺産の登録に関わった行政の方からご説明いただき、その後にさまざまな事象のつながりについて補足説明した後、生徒がまとめた文章を計量テキスト分析のソフトである「KH Coder」で数値化、視覚化した。その結果は以下の通りである。 まず、成果としては多くの生徒が「大根」を中心にまとめる中で、「環境」や「循環」とかかわっていることに気付いていた。また、農業遺産を構成している「ツバメ」や「竹」に言及する生徒も多かった。このことから、農業遺産と自然環境とのつながりについてはある程度理解させることには成功した。反対に人文事象について言及が少なかったことが重要な課題として挙げられる。特にこの地域の農業遺産の構成要素の中でも「畜産」は極めて重要なものであるが、出現の回数は非常に少なかった。同時に「文化」への言及もほとんど見られなかった。農業と強くかかわるのは自然事象であるという意識が生徒にもとよりあることがこの要因として推察される。したがって、今後地理学習において複雑なつながりを理解させるためには、中心となる事象から離れた、一見関係がないように思えるような周辺の事象を強調したり、丁寧に説明したりすることが重要になると考えられる。 こうした点を今後の教材作成に活用していく予定である。さらに、所属の研究会や学会等で報告することで助言を賜っていきたい。