表題番号:2023C-235 日付:2024/04/05
研究課題国際法におけるグローバル・ガバナンスと民主主義の基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 国際教養学部 教授 池島 大策
研究成果概要
 国際法には、民主主義という概念の定義がない。民主主義の定義自体が難しいことは論を待たない。しかし、一般に、立憲主義、権力分立、普通選挙、人権(特に自由権)尊重などの考え方を、先進資本主義国の歴史や発展を根拠に、世界中普遍的に妥当する価値観であるとは言い難い。多様な国家形態やその歴史に照らせば、民主主義の在り方も多様であり得る。しかも、国際法には内政不干渉の原則もあれば、その批判的な観点として国際関心事項に関する事案には当該原則の例外を認める立場を先進資本主義国は支持する傾向にある。民族自決権の尊重、貧困撲滅、環境保護などの考え方についてある程度の国際的なコンセンサスは見られるものの、その程度の差が存在する。国際法は、民主主義という価値観を広めるための道具でもない。国際法の生成では、ある特定の価値観を推進する立場から特定の規範や規則を定立されることで成立するという事態を考えづらい。すなわち、国際法は、実社会において、特に政治的に価値中立的な法規則でなければ、諸国の支持を得にくく、履行もされにくい規範である。したがって、政治的な内容を含みうる規定が排除できないにしても、国際法は、海洋法(南シナ海紛争の背景にある事情につき、下記成果参照)や気候変動と海面上昇などに関する国際規範(下記文献参照)については、国の民主主義の度合いや選挙制度をはじめとした人権などの価値観とは直結しない。そうした事情を踏まえた国際法の発展が国際社会における依然として支配的な傾向にあり、そうでない国際法規範は受け入れらないと考えられる。したがって、グローバル・コモンズのような共有資源の扱いについても、極力、価値中立的な規範として広く支持を受け、政治体制や価値観と距離を置く規範形成が、地球環境問題のようなイッシューの解決についても必要であろう。