表題番号:2023C-208 日付:2024/02/13
研究課題非アルコール性脂肪肝炎の新規治療標的に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 千葉 卓哉
研究成果概要

【背景】

現代社会において、平均寿命と健康寿命の差による介護費用の増大が課題となっている。そこで、健康寿命の延伸の重要性が高まっている。健康寿命に影響を与える要因の一つに肥満があげられる。肥満のもととなる脂肪細胞は、前駆脂肪細胞から小型脂肪細胞、大型脂肪細胞へと分化・成熟する。大型脂肪細胞は動脈硬化を誘発する悪玉のアディポサイトカインを産生し、心筋梗塞や脳梗塞を発症することで健康寿命を縮める。これまでの研究から、3T3-L1 脂肪前駆細胞において新規代謝関連分子であるWD repeat domain 6WDR6)をノックダウンすることで、脂肪蓄積が抑制され、脂肪細胞への分化が阻害されることがわかっている。しかし、生体におけるWDR6と脂質蓄積の関連は明らかになっていない。本研究では、WDR6の抑制が脂肪蓄積に与える影響を検討した。

【方法】

鼠蹊部皮下脂肪の組織標本を作製し、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色およびF4/80抗体に対する免疫染色を行い、脂肪細胞のサイズおよびF4/80陽性面積率をそれぞれ算出した。血漿中のALT, AST, TG, TC濃度は比色定量法で測定した。鼠蹊部皮下脂肪の遺伝子発現は定量的PCR法で定量した。         

【結果】

WDR6KO-o/ob群はWT-ob/ob群と比較して、体重および鼠蹊部皮下脂肪重量、脂肪細胞のサイズがそれぞれ有意に低値を示した。血漿ALT濃度も有意に低値を示した。脂質蓄積に関連するタンパク質の遺伝子発現量を測定した結果、WDR6KO-ob/ob群ではWT-ob/ob群と比較して、PPARγ1の発現量は有意に低値を示し、PPARγ2の発現量は有意に高値を示した。脂肪細胞分化を誘導する転写因子C/EBPαの発現には有意な差は認められなかった。

【考察】

本研究より、ob/ob マウスにおけるWDR6遺伝子の欠損は、レプチンに由来する脂肪細胞分解が抑制された環境下においても、脂肪合成を抑制または脂肪分解を亢進し、脂肪蓄積による体重増加を抑制し、肝機能障害を抑制することが明らかになった。今後は、WDR6遺伝子と肝臓の炎症の関連およびWDR6遺伝子の欠損によるインスリン経路への影響についてさらなる検討が必要であると考える。