表題番号:2023C-192 日付:2024/03/12
研究課題「合理性の哲学」のための基礎研究:デレク・パーフィット『理由と人格』を中心として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 社会科学部 教授 千葉 清史
研究成果概要
  本研究では、「合理性」概念の総合的解明を目指す社会科学諸分野にまたがる学際的共同研究の基礎固めとして、デレク・パーフィット『理由と人格』(Reasons and Persons, 1984)において展開された合理性理論の批判的検討を主として行った。
  まずは、そのための準備として、哲学における「合理性」概念の多様性を概観し、その全体像を把握することに努めた。主たる論点の一つは、合理性についてのいわゆる「ヒューム主義的」理解(あるいは道具主義的合理性/経済学的合理性の観念)であり、それに対するさまざまな反論(例えばカント主義的、あるいは徳倫理学的な)があることが確認された。「ヒューム主義」は理論的に倹約で、それゆえに強力な立場であり、それに対してそもそもどのような問題提起が説得的になされうるのかが重大な問題となる。
  続いて、パーフィットの特に『理由と人格』における合理性理論の考察へと進んだ。今年度の研究ではとくにその第I部・第II部を検討した。そこでは、ヒューム主義的な「自己利益」概念に対する批判的議論が展開されており、とりわけ未来における「自己」利益、という考えに疑いが投げかけられる。その議論のいくつかは、問題的であると思われた。とりわけ、「自己」に関するパーフィットの「破壊的」な議論は、特に(申請者が主な研究対象とする)カント的議論(例えば『純粋理性批判』「超越論的演繹」)によって退けられる、あるいは少なくとも弱められる、ように思われる。
  本研究を通じて、パーフィットの議論に対する批判的諸研究、ならびに、パーフィット自身の考察のさらなる展開(『重要なことについて』On What Matters)等を参考にしつつ、パーフィットの「合理性」理論に対する批判をさらに進展させる、という研究目標を得た。