表題番号:2023C-177 日付:2024/04/04
研究課題スパースハイパーグラフネットワークによる頑健なMRI脳年齢推定
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 大学院情報生産システム研究科 教授 鎌田 清一郎
研究成果概要
加齢による脳への影響は,脳の形態変化として現れてくる.特定の脳疾患,例えばアルツハイマー病を患っている場合,この形態変化は健康な状態よりも早く進行する.このような現象を捉えるために,予測年齢と実年齢との差を扱った脳年齢差という概念が2010年頃から提案されている.従来の脳年齢差を推定する研究は,脳MRIデータを用いてCNN深層学習や機械学習による推定法が提案されている.しかし,異なる撮像環境で取得されたMRIデータは,量や質,分布,特徴などが異なる.この違いはデータの不均衡を引き起こし,推定精度に影響を与える.データの不均衡を排除して学習を行うことは,現在脳年齢差推定の研究の課題となっている.本研究では,異なる撮影環境で撮影された10種類の公開データセットを統合したOpenBHB(Open Big Healthy Brains)データセットを用いて,脳MRIデータをハイパーグラフ表現に変換することで,異なる撮影環境によるデータの不均衡の影響を少なくした年齢差推定手法を確立した.提案手法は,Automated anatomical labelingアルゴリズムによる脳のアトラス情報を利用して,脳MRIデータをハイパーグラフ表現に変換することで,脳の対局-局所特徴を効率的に表現することができるようになる.また,ハイパーグラフを学習するためのSparse Hyper Graph Neural Networkと,ノード間の空間的な連続性を捉えるためのGraph Long Short-Term Memory を統合した学習モデルは,撮影環境の違いによるデータの不均衡の影響を少なくした脳年齢差推定の実現が可能となった.OpenBHBデータセット3984枚を用いて,5分割交差検証法によって従来手法と脳年齢差推定の精度を比較したところ,平均絶対誤差MAEは約2.7だった.提案手法は従来手法であるHU-Netに対して約7%,Global-Local Transformerに対して約4%の推定精度の向上が確認できた.また、ハイパーグラフ接続性行列を用いた分析では、前頭葉が脳年齢推定に影響を及ぼす重要な部位の可能性があることが示唆された。