表題番号:2023C-173 日付:2024/03/28
研究課題上皮微小管の制御がつかさどる尿細管拡張の分子機構
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 国際理工学センター(理工学術院) 准教授 戸谷 美夏
(連携研究者) 理工学術院 教授 佐藤 政充
(連携研究者) 理工学術院 教授 竹山 春子
(連携研究者) 高等研究所 准教授 角井 康貢
研究成果概要
上皮細胞は、腎臓や腸など多くの臓器を構成する主要な細胞で、細胞内の微小管は、特徴的な配向(上皮微小管編成)を示す。我々はこれまでに、微小管結合タンパク質Camsap3が上皮微小管編成の鍵となること、Camsap3変異マウスの腎臓に、多発性の嚢胞が形成されることを見出した。嚢胞腎は、その多くは良性であるが、遺伝性の疾患も知られる。遺伝性の嚢胞腎に関する多くの研究がなされているが、嚢胞形成のしくみについては、未だ多くのことがわかっていない。
Camsap3変異マウスの腎嚢胞では、腎臓の最小機能単位であるネフロンを構成する尿細管の一部である近位尿細管が拡張する。拡張した尿細管では、上皮細胞の微小管編成が乱れ細胞が扁平化する。扁平化した細胞では、転写因子の局在変化が観察され、発現遺伝子の変動が示唆された。このことから、細胞の形態を指標に、腎組織切片から直径100μの微小領域を採取し、遺伝子発現解析を進めている。野生型とCamsap3ノックアウト(KO)マウスの腎組織から、それぞれ、糸球体、近位尿細管(PT: Proximal tubule)、集合管を、加えてKOマウスからは、嚢胞のサイズを区別した微小領域(KO-PTSC: KO-PT Small Cyst と、KO-PTLC: KO-PT Large Cyst)を採取し、mRNAを抽出した。
本課題では、打ち抜いた組織片から得られた、発現遺伝子情報の解析を進めた。近位尿細管(PT)に着目すると、野生型マウスPTと比べて、KOマウスで形態変化を伴わないPTよりも、嚢胞形成初期(KO-PTSC)に、有意に発現変動する遺伝子がより多く検出された。これまで、腎組織を崩し細胞を分取しての発現解析は行われていたが、複雑な組織構造をもつ腎臓おいて、上皮微小管の編成が寄与する微細な細胞形態の変化にともなう遺伝子発現変動を検出することができたと考える。