表題番号:2023C-164 日付:2024/02/05
研究課題ファージセラピーに有効な組換えファージ作製技術の構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 常田 聡
(連携研究者) 理工学術院 助手 金子知義
研究成果概要
近年,薬剤耐性菌による感染症が世界中で蔓延しており,2050年には薬剤耐性菌感染症による年間の死者数は1000万人に到達すると予想されているほど深刻な問題となっている。そのため,従来の抗菌薬に代わる新しいアプローチが求められている。代替療法の一つとしてファージセラピーがあげられるが,抗菌薬に比べてファージの溶菌能力が劣る場合がある。本研究では,ファージの遺伝子を組み換えることで,この課題の解決に取り組んだ。具体的には,大腸菌に感染するT7ファージをモデルファージとして用い,他のファージ由来の外来エンドライシンを導入し,溶菌効果の高い組換えファージを作成することを目標とした。エンドライシンは,細菌細胞内で複製されたファージが細胞壁のペプチドグリカン層の網目構造を切断する際に使う溶菌酵素である。エンドライシンは作用機序によっていくつか種類があり,このうち,T7ファージはアミダーゼを有する。本研究では,T7ファージに自身の持つエンドライシンと同じ作用機序の外来エンドライシンを導入した場合と,異なる作用機序の外来エンドライシンを導入した場合とで溶菌効果にどのような違いが生じるかを検証した。具体的には,新しいファージ合成技術であるin vitroパッケージング法を利用して,T7ファージにT3ファージのアミダーゼを導入したT7(ami),およびT2ファージのグリコシダーゼを導入したT7(glyco)を作成した。そして,それらの組換えファージを用いて,大腸菌K-12株およびB株由来の5つの株に対する溶菌効果を二層寒天培地上のスポットテストによって評価した。大腸菌MG1655株を基準としてEfficiency of Plating (EoP) を算出した結果,株ごとに溶菌効果は異なったが,Top10F’株に対するEoP値はT7(ami),T7(glyco)ともに元のT7ファージ比べて有意に高い値を示すことがわかった。