表題番号:2023C-163 日付:2024/04/10
研究課題鳥類における光依存的な磁気受容分子候補クリプトクロム4における光誘起ラジカル形成反応の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 助手 大塚 浩晨
研究成果概要

多くの生物には地磁気を認識する能力が備わっており、中でも鳥類をはじめとするいくつかの生物種では光依存的な磁気受容が報告されている。鳥類における光駆動型の磁気受容は、クリプトクロム (CRY) と呼ばれる光受容タンパク質によって仲介されると考えられている。CRYの光受容によって量子もつれの関係にある2つの不対電子が生じ、それらの量子化学反応における磁気依存性を介して磁気情報が伝達されると推定されている。申請者らのグループは以前に、ニワトリが持つCRY4 (cCRY4) のフラビン発色団 (フラビンアデニンジヌクレオチド;FAD) の陰性ラジカル (FAD) と、cCRY4を構成するチロシン残基の中性ラジカル (Tyr-O) の反応分岐が磁気情報を有するのではないかと類推された。

 cCRY4における電子の振る舞いに地磁気が影響を及ぼしたとき、どのような反応実体として検出されるのかを推定するためには、光反応による反応産物の形成とその磁気依存性の理論予測が有効であると考えた。そのために、cCRY4の光受容による反応実体の変遷を再現できるシミュレーターを作製した。cCRY4に結合するFADは、基底状態である酸化型 (FADOX) から光受容によってFADを介して中性ラジカル型FADHへ還元・プロトン化される。さらにFADHは光を受容し、完全還元型 (FADH) へと還元される。これらの反応の量子収率や反応時定数をもとに理論データを推定し、実測データと比較した。その結果興味深いことに、FADOX → FADFADH → FADHの量子収率は一定ではなく,反応によって変化すると類推された。これらの量子収率変化はcCRY4全体の構造や状態の変化を表している可能性があり、理論シミュレーターによって磁気情報取得を担う分子実体が推定できると期待される。