表題番号:2023C-142 日付:2024/03/29
研究課題深層学習を利用した粘着剤の剥離先端解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 教授 山崎 義弘
研究成果概要
粘着テープを被着体から剥離する際、剥離先端において粘着剤が大変形し、フィンガリング不安定により大変形した粘着剤によって糸引き構造が形成される。このような糸引き構造の存在は粘着剤の剥離強度に影響を及ぼすことが知られている。従って、糸引き構造の形成過程を観察し、粘着・剥離のダイナミクスを理解することは、非線形動力学の視点からだけでなく、実用的にも極めて重要である。特に、粘着剤がゴム弾性程度の弾性率となる速度で剥離した場合、糸引きに対して2種類の特徴的な構造が形成されうる。一つは、縁あり剥離と呼ばれており、これは、粘着剤が被着体から剥離する前に大きく粘着剤が変形し、トンネル状の構造を形成しながら剥離する場合である。もう一方はトンネル構造を伴わない剥離で、縁なし剥離と呼んでいる。本研究は、このような糸引き構造の違いを剥離中に撮影した糸引き構造の動画から解析し、特徴付けることを目的として、実際に深層学習を用いて、剥離先端を特徴付ける構造を検出し、トラッキングする手法を構築することを行った。具体的には、(1)剥離先端における粘着剤の変形を立体的に観察し、動画として変形のダイナミクスを記録できるよう、現有の粘着・皮膜剥離解析装置(VPA)を改良した。(2)測定によって得られた動画に対して、MetaAI社のSegment Anything Model(SAM)という深層学習モデルを利用して、剥離先端で観られる特徴的な糸引き構造の検出、および、トラッキングを行った。検出精度については、糸引きの微細構造を捉えるには不十分な点がみられたものの、剥離先端における粘着剤の形状、および、剥離時の基材の形状を大まかには捉えることに成功した。(3)SAMによって検出された糸引き構造の特徴量を定義して、この量に対する剥離速度・剥離角度・粘着剤厚さといった依存性を調べた。以上により、剥離強度と糸引き構造との関係が明らかになった。